前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

知られざるスターリン

知られざるスターリン

メドヴェージェフ兄弟 著 2001年刊行、2003年(没後50年)に翻訳本 現代思潮新社 刊


クレムリンに所蔵されていた膨大な極秘文書から90年代に公開されたものを参照して、これまで出版されたスターリン関連本と、証言の虚実を洗い出すような感じが強い。スターリンが読書家だった、という事実はあちこちの書評に書かれている。【独裁者スターリン】の粗暴なイメージとの落差が激しいから、これで興味が湧いて読むひとも多いだろう。ある種の親近感は裏切られるけど。


活動家時代の若い頃から流刑地で本を読んでいたどころか、そこの共有財産だった蔵書を一時は私物化していたほど。ソ連時代に最高権力者になっても一日平均500ページ読んでいた、という。クレムリンに集められた約2万冊は、内容を伴わない速読なのかと思いきや、文法ミスの添削から短いコメント批評まで鉛筆が入っている蔵書も多いそう。海外文学でのスターリンの造詣の深さには西側から来た知識人が多数惚れてしまう。専門分野は特に実害が多い。農業・建築・言語学と専門家を呼びつけて意見(強制指導)する。
独裁者本人による鑑賞・検閲は本に留まらず映画からレコード(鉛筆で一枚づつ「結構」「まあまあ」「駄目」「クズ」と書かれていた)にも及ぶ。現世での閻魔大王役みたいで・・・


初めて知るようなジャンル?で興味深かったのはソ連国内の原爆製造から水爆開発までスターリンと原爆』、日本関連ではスターリンとアパナセンコ 極東戦線』の章。
原爆製造工程では米国とドイツの核物理学者・親共産主義者による技術情報の供与と、ドイツ軍の捕虜で生還した部隊を囚人労働として鉱山採掘・原子炉建設・実験・運転に使い大量に被爆させた『人力』スピード開発の凄惨な事実が書かれている。
極東での満州国境、日本の関東軍との対峙は、アパナセンコ将軍の指揮を中心にして、この本には珍しい論調で褒め讃えている。
このほか、スターリンイスラエル建国で国内のユダヤ人弾圧(家族を含めて)と相反するような国連でのイスラエル建国承認も興味深い。理由が不可解。


スターリン時代の新事実を刷新したこの分厚い本が良心的なのは、死後に消えた膨大な私文書・公文書の行方にまで思慮・推論が及んでいること。スターリンの側近は長年暴君に仕えた共犯者なのだから、証拠隠滅に走ったのも証言がかみ合わないのも納得。




自分の子ども時代には田舎の駅に不良・有害図書を入れる白いポストがあった。箱には大文字で、みない・読まない・買わせない・・・うろ覚え。
今でも有害図書は無茶なくくりだと思うけど、同志スターリンだけは有害読書家と認定してあげたい。