前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

コロニアリズムと文化財 −近代日本と朝鮮から考える

装飾品骨董品を高値で売る目的で盗掘された無数の墓暴きを描写した記述が生々しい。
韓国で翻訳本が今年出版されて書評・内容紹介に興味を持った。日朝間のみに留まらない、旧帝国主義国側に欠けている視点を。
【ハン・スンドンの読書無限】日本が略奪して埋めてしまった私たちの記憶の源泉 : 文化 : hankyoreh japan


コロニアリズムと文化財――近代日本と朝鮮から考える (岩波新書)

コロニアリズムと文化財――近代日本と朝鮮から考える (岩波新書)


「盗取された又は不法に輸出された文化財に関する条約」
文化財の返却を求めるユネスコ ユニドロワ条約(1995年)の存在を知った。日本は署名していないが、民主党菅首相とイ・ミョンバク大統領の日韓間で「朝鮮王室儀軌」など重要な文化財の返還契約(無償譲渡、お渡し とかいう濁らせた言い方)は交わされている。著者が書かれている様に、こちらの書庫に死蔵されている位なら返すべきだろう。関係改善に繋がる外交の仕事は幾らでもある。


書籍などはデジタルで記録を撮っておけばオリジナルの必要性も感じられないし、各国の博物館アーカイブではWebで一般公開もされている。特に中国韓国との共同研究や協力がないと日本の歴史も語れない。書類を残さない、記録は無かったことにする、タコツボ学会の権威の学説は検証しないというこの国においては・・・


本書に紹介されている大英博物館の尊大な詭弁「人類主義」(世界の達成すべてを1ヶ所に集めている意義)は、エジプトのカイロ博物館で感じた、本来あるべき所の重要文化財が略奪された状態のままのに立っている、美辞麗句と吊り合わない不当な扱い。中国の名ばかり自治区チベット ラサの綺麗な博物館、内モンゴル首都フフホト市の展示が素晴らしく洗練された博物館、それぞれ次元は違いながら遺物を通して、彼らが誘導する大中華に吸収する心地悪さ。


日本の国立博物館や美術館にも、戦前戦中に海外から略奪や同化政策の中で商人や研究者が騙して持ち帰った物たちの居心地の悪さを感じる。
朝鮮経由の焼き物、北方民族の生活用具や大事な祭事品、展示しているものはほんの一部で、あとは倉庫に死蔵されている。明治の著名な政商たちのコレクションが展示された美術館も、今の倫理観では多くが略奪物になる。「帝国主義列強はみんなやってた」的な言い訳は幼稚な国民感情には有効としても、金を払った証明用紙が残っている事実は果たしてどうなのか、当時一方的に武装した警備や兵士を従えて、奪う側の言い値で売らなかったら身の危険を感じただろう。


終戦間際に米軍が京都に原爆を落とさなかったのは、米国の東洋美術専門家ランドン・ウォーナーの助言であるという説は神話だと切り捨てられている、中国で壁画剥ぎ取りの前歴も紹介。
1991年イラク戦争では米政府が1954年ハーグ条約「武力紛争の際の文化財の保護のための条約」に照らしてリストアップした価値あるとされる文化財の所在地を攻撃することはしなかったという。(原則で守ったかは疑問)
しかし2003年ブッシュ・ジュニア政権でのイラク戦争では、破壊と略奪が横行、米軍が守ったのは「石油省」だけ。侵攻の事前に流通業者込みでバクダッドの博物館からアメリカの個人へ売却された文化財も多いとの疑惑がある。