前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

東電テレビ会議49時間の記録

9月にOurPlanetTV主催の福島映像祭2013で「東電テレビ会議 4時間特別編集版」を視て以来、想像を超えた衝撃と途方もない宿題を背負わされた感をずっと引きずって、もう年末に。


福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録

福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録

東電によりモザイク・ピー音で加工され一部公開された、3/12日22:59分〜 15日0:06までの音声付きテレビ会議映像を丹念な注釈と解説付きで文字起こしした書籍、買ってからこのぶ厚い労作を読み始めは遠回りして遅れに遅れた。


映像の荒い6分割画面は東電本社・本店とオフサイトセンター、福島第一、福島第二、柏崎原発の担当者たちがライブカメラで映されている。マスコミで顔出ししていない社員には雑なモザイクがかかり、名前を呼ばれている所にはピー音が被せている。
テレビ会議の映像を長めで見た人たちが感じる共通した感想は、これほど意思疎通が出来ていない組織に呆然とするのではないかと。
組織を管理するあるいは流通に関わっている技術者が診たら、一体どこから直すべきか悩むのではないかと思う。


定期的に1F(第一原発)各箇所〜敷地外からの高い線量が細かく発表されて感覚が麻痺する。「現場は一生懸命やっている」を充分承知でもオトナの組織とは思えない失態の数々、疲労困憊の1F吉田所長に何度も繋がらない官邸への電話を掛けさせたり、同じ内容の説明を何度も求めたり、繰り返し呼びかけては雑多な事まで連絡をとろうとするシーンが多々記録されている。
疲労困憊の中、少し離れたオフサイトセンターから竹藤副社長が「東電TEPCOスピリッツの発揮どころ」(13日20:46)と励ます。精神論しか拠り所がないといういつかきた道。高線量で飛びたがらないヘリをやっと飛ばすにも、現場で緊急に必要なバッテリーを積まずに、(遠方の品薄なホームセンターへ車で買い出しするための)現金を運びますとか。緊急を要する応援や装備を届ける事に関するミスが頻発する。震災直後は協力会社の多くの作業員を帰してしまったりの理由で現場での連絡用無線機が足りない、PHSの電波が通じない、バッテリー切れの為に長距離用トランシーバーを頼んだところ、チャンネルが替えられない50台が届いたり(14日14:32)。冷却作業のための消防車の応援要請も意思疎通が上手く行かない、消防車を2台頼んだら消防士だけが2F(福島第二原発)に来て、車に載せて運びましょうか?(14日16:13)とか。


原発電源喪失以来の高線量で現場に近づけない為に、遠くから目視で緊急冷却機器が動いている(だろう)とか、必死で流しこんでいる水が目的の場所へ確実に入っている(だろう)という、誤った報告に寄り掛かって混乱しながら悪化していく状況も、手動では弁が動かない・フィルターの付いていないベント装置・・・・そもそも複雑な配管が何処へ繋がっているかというプラント設備自体を誰も把握できてない事に驚く。東電本店の意識は現場の危機回避を助ける事よりも、官邸や報道プレスへの細かい文書作成の方が優先されている。「計画停電」発表後は官邸から酷く恫喝されたと語る副社長(3/14 2:06〜)、調整発表の仕方で朝方まで相談している。巨大組織の頭である本店が悪意のないその場しのぎで各方面へ気を遣い発表を遅らせ、絶体絶命の現場と恐ろしい乖離を生んでいる。
この組織に収束作業を任せているという不安も増大する。


震災当時はSPEEDI(各地の放射能測定値)情報が福島県県庁へ届いていなかったと報じられたけど、3号機格納容器圧力上昇という重要な発表を保安院が止めて遅らせ、情報を共有している県庁が早く出せと言ったり、後には本店広報班の音声から、県知事が放射能の拡散情報プレスに「これから天候が崩れる予想だが、いま北西の風が吹いており、観測された放射線量から健康に被害が出る心配はない」の文言を入れてくれと要望しているとして、躊躇しながら会議で相談している様子が記録されている。(14日13:19〜)これは後々重要。


これはもう、今頃安全な所から揚げ足取んなボケとかいうレベルではなく、日本人の組織が平時の以心伝心では一見スムーズに運営出来てる様でも、緊急時には単純な意志の疎通さえままならず、人的ミスが雪だるま式に転がって行くざまを悪意なく記録してしまった第一級の資料。これから学ぶ事は多すぎる。自分の様な想像力が足りない愚者には、文字起こしテキストだけだとダメな戯曲シナリオにしか感じなかったかも、全部視るのは不可能でも一部公開され拡散している映像を少し視てテキスト内のやりとり「空気を読む」事を推奨。この国に暮らす知恵者には、福一を特別視せずこの大惨事で砕け散った社会の最低限の信用を積んでいく方法を頼む。