日中戦争とイスラーム
「日中戦争とイスラーム 満蒙・アジア地域における統治・懐柔政策」
日中戦争当時に日本の戦略上重要視されたイスラム研究と関係諸国の有力者たちとの懐柔策など、さまざまな資料を研修者が掘り起こした研究論文の共著。
こういった書籍を読めるのは大変ありがたい。満州研究・関連本は今も多く出版されているし、有名な学者の歓談・対談本などにも青年時代に関わった満蒙工作への言及も稀にある。でも当時の日本のイスラーム研究と具体的な懐柔工作と効果への言及は探し出せず、ずっと気になっていた。
どれも非常に新鮮で興味深い内容、乱暴に言うと〜大日本帝国の国策としてのイスラーム政策は政治的外交的にはまったく一貫せず、人材や情報は軽視され続けた。しかし個人レベル、または小さな政治運動や移民団体の単位では活発に奮闘し時に対立していた事がうかがえる。
日本の領土拡張に伴って周辺の少数民族のリーダーやイスラム教徒を利用しようと画策したが、回民の軍閥を味方にする工作も、中華民国と共産党の提示した自治権と比べ勝てるわけもなく、蒙古の徳王を利用し満蒙を西に拡張しようとした日本側の動きも効果なく撤退している。
現地の特務機関と関東軍や、満鉄の満州国との間には干渉しあうほどの不信感がうかがえる。
日中戦争とイスラーム―満蒙・アジア地域における統治・懐柔政策 (慶應義塾大学東アジア研究所叢書)
- 作者: 白岩一彦,メルトハン・デュンダル,松長昭,倉沢愛子,坂本勉
- 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
- 発売日: 2008/03/20
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
現在でも美談のように生きているトルコの親日感、日露戦争直後には日本の天皇がイスラームに改宗して諸国をまとめるという話がまことしやかに広まっていた、という当時の期待度にも驚き!
オスマン帝国滅亡後の新生トルコから亡命中の旧王族を利用しようとした東トルキスタン工作は興味深いが、やはり国家ぐるみの政策とは言い難く当然失敗している。昭和初期に東京の代々木上原にあるモスク建設(今は改築されたモスク)に関わった団体や政治団体、個人間の人間関係も面白い。
当時のイスラーム研究・政策は強烈な個性の持ち主がそれぞれスタンドプレーを演じている感じ。戦後にその功績の部分が継承されていない感もあり。
出典リストには気になる研究書や論文が多い。大学や研究所の蔵書を早くデジタルアーカイブ化して欲しくなる。