前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

蝦夷地の征服1590−1800

蝦夷地の征服1590‐1800―日本の領土拡張にみる生態学と文化

蝦夷地の征服1590‐1800―日本の領土拡張にみる生態学と文化

日本近世史が専門の米国の若い歴史学者が2001年に出版した学術本 The Conquest of Ainu Landsの全訳。向こうではペーパーバック版もあり。
征服者側のみのフロンティア観を払拭する米国の新しい西部史/ニューウエスタン派と自認する著者が、今の北海道・当時の蝦夷島を未開の処女地ではなく『中間地』として捉え、日本の戦国時代末から、江戸の終わりに南下したロシア人と接触する頃までの時間枠で、アイヌ民族の住む地が『日本』にどのように従属されていったかを纏めている労作。
向こうの学術書レベルの高さというか、ここまで大量の文献を読み込んで再構成して、昇華している驚き。


当時のアイヌ民族は地域差があり言語も政治的にも統一されていなかった首長領の集合体であると紹介し、そこに交雑した生態学帝国主義という視点は、ものものしいが、読むとなるほど納得。
自然と動植物を崇拝し信仰を掟に、収穫を調整していた先住民のライフサイクルが一変した16世紀。毛皮交易などで得た米・酒・タバコの生活習慣。「シャクシャインの戦い」後の行動制限。不当なレートで溜まる負債。鉱山開発や木材伐採の生態系破壊、強制労働を伴う鮭の乱獲などの【企業の動物】化。


日本や大陸からのヒト・モノ・病原体の流入で、アイヌの生活環境や生命が疲弊していく様を、対岸のシベリヤの民やアメリカ大陸の先住民の境遇と同期させつつ書かれている。


近世日本を『進物社会』と称する紹介では、時の権力者へ贈られた鷹狩り用の鷹や、オホーツク経由の蝦夷錦、ラッコの毛皮など流通ルートの記述も。南サハリンで取れる薬効のあるキノコ(エブリコ)の輸入や、大都市での毛皮・鹿皮ブームなど急速な需要が起きた記述も興味深い。
長老による間接統治や儀礼的な従属のシステムを示す中で、藩主への謁見・ウイマムとオムシャの作法を紹介している。



ジョン・バチェラーが出会ったひとりの老練な医者(明治の撫育政策か)の言葉、「この人種は疲れ果てている」は、世間の「アイヌは従順でおとなしい民族」という言説と実は同じ疲弊の歴史に根ざしている。
同化政策を居直り派か、アイヌはエコでファンタジー派、それ以外の人に一読をお勧めスル。