明治中期のアイヌの村から
- 出版社/メーカー: 六興出版
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明治中期に日本に滞在して書かれたスミソニアン研究所のロイマン・ヒッチコック(Romyn Hitchcock)教授による二つの論文の日本語訳と訳者、北構保男氏による未来からの補足と論考。
【エゾ地の古代竪穴住居者】
1888年(明治21年)色丹島を訪れ、藁葺きの住居や、千島列島からそこへ移住させられた島民達の集合写真を写している。
【日本・エゾ地のアイノ人】
当時の貴重で奇異な写真と緻密なイラストが眼を惹く。民族の身体的特徴から言語と地名、民具や文化的風習までを欲張りに書いている。時には体毛の濃さをサンプル調査したり、当時の欧米人たちの夢想したアイヌ民族のルーツへの妙な興味がうかがえる。
明治中期にすでに先人たちの研究が蓄積されているので引用も多い。
紹介されているチェンバーレン教授の訳した民話、アイノ人のリップ・ファン・ウィンクルと題される話が面白い。海で遭難した漁師が不思議な村にたどり着き、謎の老人の導きで帰ってくると、そこで過したはずの1日が一年経っていたという。
海の彼方の別世界、二つの異なる時間、というのは確かに浦島太郎にも共通している。ただリップ・ヴァン・ウインクルのような数百年巻き戻しで体が崩れ落ちる劇的なラストではない。
世界の神話や民話のバリエーションはおおよそ限られていることもあり、研究者が地球上の好みの土地を二つ選択した時点で、面白くて妙な論が作られる罠も。