前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

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メディア・ナショナリズムのゆくえ

気が重いけど前から気になっていた本を読んだ。

メディア・ナショナリズムのゆくえ―「日中摩擦」を検証する (朝日選書)

メディア・ナショナリズムのゆくえ―「日中摩擦」を検証する (朝日選書)

2005年四月に中国各地で起き大々的に報道された『反日デモ』、日本の新聞メディアと中国大陸のメディア・香港・欧米の当時の報道を検証している共著。あまり知られていない中国の新聞媒体の商業化、ポータルサイト同士の競争などの紹介が興味を惹く。


05年の反日デモに火がついたキッカケは、3月末に国連の新たな安保理常任理事国入りに当時のアナン事務総長が日本を容認するような発言をした報道からだった。ポータルサイト掲示板・メールを使って爆発的に広まった国連アナン宛の反対署名運動〜各地でのデモと続く。それまでの中国側がいう日本の歴史歪曲問題と領土問題が火種になった。95年から愛国主義教育に日中戦争を強調して教える政策も下地になっているという。
ネット情報を駆使した運動の紹介として、日本製品ボイコット運動は漠然とした呼びかけではなく【新しい歴史教科書をつくる会】のサイトに賛同企業と個人リストが公開されていたものを使ったという。有名企業がそんなところに実名を曝していたのはどうかしてるがっ。
日本国内では反日デモを『中国政府が誘導した』といった憶測も流れたが、実際は運動する側と管理側双方に黙認やけん制や暗黙知が絡んでいた事が、各人の運動の流れと当時のカキコミなどで具体的に紹介されている。四月中旬に反日運動は当局に封殺されたが、デモに参加しないようにと言う上からの警告や、いきなり反日サイト遮断もネット世論の抹殺には逆効果だったよう。


当時の日本側の新聞媒体が伝えた報道・世論調査・論説記事を使った検証は、この本の発行が朝日新聞社ということもあってかユルイ。朝日が小泉人気を支持した経緯も分らない。デモの過激な写真を載せたという新聞媒体よりも、テレビ報道が好んで繰り返し流した映像で日本人の中国嫌いを増やしたはず。
日本批判の商品化とも表現される新聞一面、巻末の関連資料で中国側の対日新聞記事タイトル表はなんだか面白い。文革用語の応用というか新しい歴史〜を地で行ってる。


中国共産党の戦時下から続く対日姿勢が揺らいでいる記述は興味深い。日本国民を一部の右翼と日本人民に分けて考え、日本人民と手を組み敵対すべき軍国主義者と闘う『区分論』。
共産党設立当時に世界革命を真剣に考えていた戦略だろう。これは戦犯をひとりも死刑にしない寛大政策や日本政府への戦争賠償請求を放棄した姿勢につながる。個人的にはここから日本側の勘違い免罪意識が生まれたように思える。国交正常化から経済技術協力やODAといった巨大事業の提供が行なわれたが、賠償金の代りの意味合いも日本側にはあった。それとは裏腹に中国国内では日本の貢献は宣伝されなかった。
80年代から首相の靖国参拝が問題視されるようになり、小泉政権をピークにした世論の右傾化(に見える。欧米メディアでも指摘)で、善なる日本人民という論法は説得力を失う。


北京オリンピックを前に中国のチベット人権侵害への抗議活動が一時的に大きく報道されている今、中国の日本批判記事と表裏一体な中国批判の商品化・ネタとして喜ぶ風潮も感じる。チベットの現状は今まで通り放っとかれて大衆の娯楽として消化されるのか。
そろそろ斬新なタテマエが必要かも。
こんな感想でいいのか。