前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

虐殺を引きずり

アフリカ情勢も知らないくせに毒を喰らわば皿まで、という勢い余って。

ジェノサイドの丘〈上〉―ルワンダ虐殺の隠された真実

ジェノサイドの丘〈上〉―ルワンダ虐殺の隠された真実

ジェノサイドの丘〈下〉―ルワンダ虐殺の隠された真実

ジェノサイドの丘〈下〉―ルワンダ虐殺の隠された真実

小説のような本の装丁を開くとカバーには抽象的な書評の抜粋。期待せず読み始めたら酷い目に遇った(褒め言葉)。
1994年のルワンダで起きた約80万人もの虐殺事件から、1年後に現地入りした米国の若手ジャーナリストが3年越しの取材で書かれた本の翻訳。ページ数がそう多くないのに上下巻になっているのは内容の濃さにて納得。ルワンダ一国のフレームに入りきれない殺し合いの要因が過積載に示されながら、なぜか軽快に進むのはインタビューからの抜粋を語りくちで記されてるからだと思う。先住民である自称ピグミー族の男を登場させてもいる。
民族殺戮は植民地時代からの継続性があった。現地の国際人道支援はそれをも間接的に助け、近隣諸国の独裁者を援助金で肥え太らせた。ここに書かれている猛毒な成分は、地上の紛争地で、虐殺の地で普遍性があると思う。


上巻の終わりに米国情報部士官が言う「ジェノサイドはチーズサンドみたいなもんだ。」に続くセリフは、先進国在住者の一定のホンネでもあり、絶望の中のナンセンス。著者が仕込んだ意図的なブラックジョークかと思う。傍観者の無邪気な笑いは人の残虐性でもある、それもありきたりな。
ルワンダ愛国軍の大佐とのインタビューで『米国の黒人コメディアンの多さ』について訊かれている。そこで語られるのは現地の知識人達の持つ世界の近さと、先進国の住人が持つアフリカへの無知との深い断崖にも見え、自分も深い谷底で勘繰る。



本書にも多く使われている【ジェノサイド】という単語はだいぶ前から陳腐に聴こえて困る。ハリウッド映画の定番モノから、国際問題を語る論客たちが日常の気にくわない隣人までナチ呼ばわりする乱用で。それでも世界各地の民族紛争を伝えるとき、善と悪のラベリングは常に新鮮な生贄を消費するテレビ視聴者に不可欠なものなのか。人のふるまいは複雑だけど、無償の愛を説くことと、隣国や近隣民族への憎悪を煽ることは恐ろしく簡単に思える。一般的に「感動」する作品はおおよそ後味が悪い。現実には終わりなく存在するのに語られない大事な伏線がぶった切りされて、愛や信念とかが貫かれているから。それら多くの話を切らずに載せている困った本。歳末に後遺症の残りそうな言葉のデッドボールを浴びる。