善き人のためのソナタ
この日、名画座で今年2月日本公開されたドイツ映画を視る。『1984年』の東ドイツという監視社会での重たい空気が上手に創られていて、ストーリーの終わり方が奇麗だった。知人の評価が高いのもうなずける。
それにしても物語は東ドイツの秘密警察シュタージのひとりの男に、人間の善なる心を過度に頼っている。密告・監視の協力者20万人ともいう多くのケースでこれに類する救済の秘話はあったとは思うけど、尋問・拷問のプロである大尉の良心に訴えるより、運命を玩ぶ悪魔の気紛れにした方が自分には説得力があった。タイミングの良すぎる交通事故も社会主義国ではよくある『消す』技術の一つのはず。
この映画で驚いたのはベルリンの壁崩壊後、秘密文書が公開されていて東ドイツ時代に監視されていた個人が当時の自分を監視盗聴していた報告書を閲覧できる事実。レポート作成者の暗号名から個人を特定できる(映画ではそうなっている)。
当時、知人の誰が尋問に屈して自分に罪をなすりつけたか、誰に監視されていたか、室内の盗聴により私生活の恥部まで時刻つきでタイプされている個人の記録ファイルが膨大にある。これを知ってから後の無数のストーリーの方がぞっとする。恐怖による国家の愛に包まれた時代の個人ログは、死ぬまで知らない方が善き人のままで居られるかもしれない。
後記ーーーー
- 作者: 見市知
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- 発売日: 2009/10/01
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