前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

小林一三

宝塚戦略―小林一三の生活文化論 (講談社現代新書)  津金沢 聡広(1991年講談社現代新書)


近代日本のメディアイベント研究で知られる著者による宝塚の創始者小林一三】一代記。
現在の阪急・東宝グループを作り上げた有名実業家。明治の末に私鉄経営の原型をつくり、新しい娯楽施設をつくった。斬新な田園都市での暮らしを謳い新興住宅地の売買、郊外型レジャー施設、路線に駅前百貨店と街を作る方式を作り上げた業績も駆け足で書かれている。アイデアマンとして評価する本も多数の執筆者により出版されている。
当時の宣伝コピーも自ら書いて事業を幾つも成功させているのも異色。失敗した例は時代に先駆け過ぎたサファリパーク風の遊園地と購買組合、ニュータウンの共用施設など。
駆け足で事業業績を纏めるなかでも、働く人の共存共栄と家族・女性お客様本位の姿勢などが強調されている。


郊外に住む家族へ向けた新しいライフスタイルを試行錯誤して次々と作っていくなかで、失敗した室内大型プール跡地の利用から宝塚少女歌劇団が生まれた事を知る。東京進出で東京宝塚劇場、映画館経営が東宝の始りと知る。
現在の東京日比谷・有楽町の街作りにも参加し、メセナの先駆けも果たしている。なにもかもゼロから創造している天才のように幻てしまうけど、自著からは早くから安部磯雄の影響を受けていた事を指摘されている。これは重要かと思う。




小林一三―逸翁自叙伝 (人間の記録 (25)) 小林一三(1953年版を元にしている)


慶応義塾に入学した青年時代から私鉄経営の奮闘期までを中心に書かれた自叙伝。
有名・無名の人脈のあれこれ、現在の大企業の経営者とのつながりの一端を知る。
地方の資産家の息子として生まれ、上京後は文学演劇青年に、銀行就職後も親の仕送りで花柳界に遊ぶ。娯楽施設の創造と経営のノウハウは体験で培われている。


ただ、この時代のお坊ちゃんには当たり前の事である結婚前に居た愛人との話が生々しく、今の時代に生きる読者としては読んでいて苦しい。率直に自分の冷たい面を自白しているとも思えるけど。これで賞賛本とのバランスがなんとか取れたかな。