前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

闇からの光芒 マフマルバフ、半生を語る

闇からの光芒 マフマルバフ、半生を語る

闇からの光芒 マフマルバフ、半生を語る

1996年から2001年9月11日以降まで、イラン映画を海外から紹介しているハミッド・ダバシとマフマルバフ監督の対話とまとめ。
前半はイランでの生い立ちから、戯曲の創作、17歳で警官襲撃、獄中生活、ホメイニ革命後の政治活動、映画製作に至るまでを訊いていく。自分にとっては『ボイコット』(86年) がどのように練られ作られたかが、この本で多く語られてて嬉しい。
後半は当時の最新作『カンダハール』(2001年)とアフガンの話が中心になっている。


対話の中で驚く話をいろいろメモ。
一夫多妻の父と母が6日間だけ一緒に居て生まれたのがマフマルバフ。母親に育てられるが親権問題からか父親に誘拐される恐れがあったので、自宅に幽閉されるように過した。祖母から宗教心を、若い叔母から文学を、義父からは政治的なものを受け継いだという。


政治運動から武装闘争に傾倒し銃を奪おうと警官を襲う。獄中の4年半では拷問の後遺症を今も引き摺っているが、肉体を痛めつける拷問より酷かったのが、監獄での人間関係だと言う。これは後の『ボイコット』で再現される。
釈放後には結婚して国立のラジオ局のライターになるも、ここでも政治対立に巻き込まれる。


演劇の戯曲を書いていたなかで自分で映画を作るキッカケが、他人の映画(イラン・イラク戦争当時の国策映画)を観て怒りに駆られたからだと言う。
借金をして機材を買って独学で3作品を作った後で、一年間空く。映画関係の書籍400冊から映画制作のエッセンスをメモに要約し、国内外の映画作品400本のビデオアーカイブから『見るに耐える』40〜50本を見る。


それだけで生まれ変わったような映画作りが出来たとは思えないけど、確かに『ボイコット』に見る違和感がこれで腑に落ちる。恐ろしく重たいテーマを仕込みながら、荒削りでチカラ技な娯楽映画。
ハリウッド映画のような銃撃戦やカーチェイスのシーンが盛り込まれて、イランでの観客動員にも貢献したのかと思う。対話の中で語られる、巨大なインド娯楽映画産業とそれを熱狂的に支える貧しい大衆についての洞察にも繋がる。【彼らに夢を見させてやれ】かぁ。