前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

フレップ・トリップ

北原白秋 樺太紀行
白秋全集19 詩文評論5【1985年 岩波書店】収録から読む。雑誌『女性』連載後1928年昭和3年アルス出版の『フレップ・トリップ』からの復刻。
 大正十四年 夏 鉄道省の主催した樺太観光団に参加して、船、鉄道、自動車で南樺太を廻っている。童謡詩人白秋ならでは旅情の描写に軽快な擬音が多い。ただ名士から成金まで一等客同士の酒付き合いが多過ぎるのが残念。今も生きているカタカナ外来語も多く飛び交う大正末期の超セレブ 御一行様の植民地観光の交流は、今の自分が読んで愉しいもので無し。かなり無礼な安宿の主の愚痴にむしろ同情する。皇太子摂政時代の昭和天皇樺太視察とルートが重なってイロイロ影響を受けている。


フレップ・トリップは赤い実黒い実のなる樺太潅木の二種類の名前だという。今も同じ名称なのか不明。
旅のメインというアザラシ・海豹島で光景は散文というか短編映画風に模して、海岸一面にはべる海獣たちの凄まじい咆哮を、ひらがなで表現している。

ぎやを、わを、がを、うわアああ、わを、をを
ぎやを、うわうう、ぎやを、わを、をう。
ぎやを、わを、がを、うわアああ、わを、をを
ぎやを、うわうう、ぎやを、わを、をう。
ぎやを、わを、がを、うわアああ、わを、をを
ぎやを、うわうう、ぎやを、わををう。

荒らい画質の写真も付いているけど、これで当時の読者が想像たくましくした、と思うと妙に羨ましい。


観光団は白系ロシア人(革命からの亡命者)の住む家にどやどや入って、勝手に家に上がりこんでは壁掛けの絵を馬鹿にしたり、仕事中を茶化したりしている。白秋は途中で無礼に気づいているが、彼ら被写体の人生を勝手に想像して狡猾な日本人論を語っている。この後でまた豊原ウラジミロフカ旧市街でもロシア人の農家をのぞいている。他の観光団の傍若無人ぶりに耐えかねて日本人村民が隣人ロシア人に同情して観光団へ怒り狂う状況になっても、日露の村民の親しい連帯感に『私は眼がしらが熱くなるのを覚えた』とズレた感想を書いてもいる。巷の紀行文に共通する観光客の悪癖かも。



大きな町、豊原では遊郭見世物小屋の呼び込みを記して、東京の延長としか思えない。とも書いている。

日本といふ国は何処へ行つても靖国神社式の見世物小屋で持ってゐる。

切り取った文章の引用はよくないと思いつつ、なにか腑に落ちる。