前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

ヒポクラテスと柔道家

誓い チェチェンの戦火を生きたひとりの医師の物語

誓い チェチェンの戦火を生きたひとりの医師の物語

ひとりのチェチェン人医師が故郷の戦渦のなかで無数の手術を続けた記録。主な時代背景としてはゴルバチョフ政権からソ連崩壊、エリツィン〜現在の強硬なプーチンまで。
この本の特徴は戦争の体験に留まらず、両親の話(第二次大戦から)、1963年に生まれ、少年時代に長老から聞かされた生まれ故郷の歴史伝承と大国ロシアとの因縁、チェチェンの村の氏族の絆と日常習慣まで語られていること。家族を通してチェチェン(チェチニア)への理解が進む。


著者は地元のチェチェン人にも嫌われる類のゲリラから負傷したロシア兵士まで、分け隔てなく治療するので、ロシア側はもとより、チェチェン側の武装勢力からも繰り返し脅迫され命を狙われている。
ただ、不眠不休の手術と体力の限界、絶体絶命の場面があまりに繰り返されるので、いくらか脚色は考えられる。それらを差し引いても、この本全体から臭ってくる手術台の血溜りと無数の腐った肉片が読み手の体にべったり貼りついてくる。


著者は国際人権団体のサポートで現在は米国に亡命、家族を呼び寄せて暮している。米国の医療制度への眼差しも興味深い。2003年の出版当時には、高齢の両親と親類はまだコーカサスに居る。
西側諸国でのロシア・チェチェン戦争への偏見と鈍い反応への苛立ちも伝わる。