前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

王道楽土の交響楽


王道楽土の交響楽―満洲―知られざる音楽史

王道楽土の交響楽―満洲―知られざる音楽史


著者は指揮者の朝比奈隆から、日本のオーケストラの源が上海のみではなくハルビン経由で輸入された事を訊き、高齢の関係者・観客側からの聴き取り取材を繰り返して、当時のアルバムなどからもハルビンと新京に設立されたオーケストラの紆余曲折を描き出す。関係者が亡くなって逝くなかで、この本が出されたタイミングも奇跡と必然。豪華な全満合同交響楽団の精密な再現をもする。良い悪いなど別にして、結果的に東アジア各国のオーケストラに人材を輩出した経緯が書かれている。


取材と掘り起こした膨大な資料を突き詰めて、満州国で設立された二つの交響楽団の歴史を中心に、日本国内の西洋音楽界との関係をも教えてくれる。20世紀初頭の帝政ロシアと清国の合弁、東清鉄道によってハルビンの街は生まれ、「東清鉄道交響楽団」が日露戦争後にハルビン交響楽団(哈響)設立へ繋がる。帝政ロシアからのユダヤ人移住推進から、革命後の移民流入、第一級の演奏家が続々とハルビンにたどり着き、そこから更に日本国内黎明期のオーケストラを指揮者ケーニッヒとメッテルがそれぞれ育てる事になる。哈響では市民(エリート)の会員による助成と共に特務機関からの財政援助を。甘粕の時代になると満映との共演を。防共としての大義名分で日本国内の公演も果たす。露助への侮蔑から仕出し弁当で酷い目に合わされたり、当時の評論家達には哈響の大陸的でおおらかな演奏を、おすぎ並に酷評しているのも面白い。


満州を舞台にしているが、音楽家は国籍を問わずただ「演奏が出来るところへ行く」という理由で動いている。
敗戦間際の焦土のなかでさえ日比谷の野外音楽堂に、食うや食わずの愛好家が大挙して演奏を聴きに来る様は、活字の上だけでも凄まじく伝わる。




Classic NEWSのインタビューライブラリーに著者岩野氏への動画インタビューがあった。序章とあとがきを補足する内容かと。



青空文庫夏目漱石満州観光「満韓ところどころ」を読む。文壇のひと、というより当時の高級官僚的な視座と、この地でトップに出世した元悪友たちとの同窓会な道中には読者側の胃も荒れる。
日露戦争で「反戦歌」を詠んだと広く受け取られている与謝野晶子も、エリートの弟がなぜ平民出身の兵隊と一緒に死ななければいけないのか?といった読み方もできる。同じ国籍だけでの理解と共感は危うい。