前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

弱いぞ主人公

二十歳の頃、病院内の掃除のバイトを丸一年していたことがある。130ベッド程度の病院で全体の掃除を5人くらいの余裕でやっていた。掃除を長年専門にしているリーダーは、子供の豪華な結婚式や孫に365日休まず稼いだお金を使っていた。
小柄な愛嬌のある老人はいつもニコニコ笑っているが、戦時中の徴兵で南洋も外れのトラック諸島に配属されていたという。二つ上の先輩は沖縄出身の好青年、アメリカ占領地で生まれ育ったとか。休憩所で一緒になる病院事務のおばさんは頻繁にお茶菓子のさしいれをくれ、替りに投機目的のマンションの話やNTT株が抽選だかコネだかで購入できたとか「自慢」を聴かされる。職場は家族もどき。早朝から受付ロビーには理不尽なくらい元気な常連患者の老人グループが居たりと、病院お約束の日常。



昨日は個室で挨拶してくれたひとが翌日死んでいることも時折。入院時には自分より若い患者の面倒を見ていた元気そうな老婆が、(恐らく投薬治療で)徐々に弱っていったり、最期の最期まで人工呼吸器をアゴを砕かんばかりに押し込まれていたり、最終日には飛び降り自殺も目撃した。あの中に居るとそれがどうしたという感じだった。正直、病人のなかで掃除をしていると自分ひとりが健康なだけで小さく満ち足りていた。昨日映画を観ながら、逃げるようにあの頃の感覚を思い出していた。