前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

民衆が語る中国 激動の時代 〜文化大革命を乗り越えて〜

NHK BS [民衆が語る中国 激動の時代 〜文化大革命を乗り越えて〜]


第1章 紅衛兵誕生へ
第2章 造反有理の嵐
第3章 下放・若者大移動
第4章 改革開放への胎動

50分×4回のシリーズ、再放送分を視終わる。
当時のことを語る何十人ものインタビューを短く切り貼りして、時系列とテーマで口承が繋がっていく番組構成。よく使われる資料映像は思ったよりも少なく、解説も最小限。様々な人達の肉声で当時を再現しようとする番組の意図は成功している。
無論、当時の青年達が一方的なくらい雄弁なのは仕方ない。


■第一章では文革のはじまりと、各地に広まる学生たちの暴力破壊行為を。初期は加害者と被害者側がはっきりしている。目茶目茶に壊された博物館に勤めていたという老人をはじめ、当時のことを笑顔で語るの老人達が印象に残る。「悲惨を超えてもう笑うしかない」という心境なのか。日中戦争時に日本語通訳をしていた父親を持つ息子が、その経歴と出身を嫌い両親の若い頃のアルバムから写真を党に提出する行為で、国への忠誠を示そうとしたエピソードなどは、映像を通してでもとても痛々しい。ここまで人に話せるようになるまでの苦しみは想像を超えている。


■第二章での大学や企業内での内紛・武力衝突の話は驚いた。書籍などではあまり触れられていない生々しさなので。
兵器工場や武器庫から物資を略奪して地方都市では本当に局地戦争をしていた。
清華大学の科学館での篭城戦ではトンネル掘ったり、地震計でそれを察知して爆破・殺傷したりと、墨家の「穴攻」そのもの。北京大学での内部闘争では、大学構内で行なわれた江青の演技がかった演説を仲間内でけなして、密告軟禁されたという当時の派閥のリーダーがTVカメラの前で「気持ち悪い〜」江青のオーバーアクション演説の真似をして、思わず笑ってしまう。講演で録音された肉声演説も使われている。


■第三章では下放で受け入れ先だった農民たちの肉声がとても新鮮。
「泣いてばかりいて可哀想だった」という同情から、「仕事をせず泥棒する奴までいた」という声まで。文革を遡って「大躍進」の飢饉と飢餓でも、下っ端役人が鉄の増産や作物収穫量を偽わる報告も「じゃないと殴られるからな」と淡々と語っている。ある村で当時何人死んだかは未だ秘密とのこと。
下放青年側からの農村や農民への横暴は既にいくつかの本に記されている。(たとえば陳凱歌「私の紅衛兵時代」では軟禁された女子学生を村民が強姦〜等々。一方で「無学な村」へ来た学生が村の女子と自由恋愛する偉そうな映画も存在する。)

番組で「懸命に働いた」という都市出身の青年たちの証言はあまりに澱みなく雄弁が過ぎて、疑ってしまうけど。


■第四章
文革の終焉の経緯について、かなり詳しく証言が撮れている。それでも文革時代から立ち直った人々のみが語れる証言集でもある。ドキュメンタリーとしてよく出来ている労作だと思う。 


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このブログを書き始めた2003〜4年頃は、本文とは関係の無い文革画像をネットで拾って貼る悪癖も多く、その後は急速に熱が冷めてた。文革の関連本から文革時代を描いた映画、文化大革命についての過去日記はのべひと月分も在り、底無しの下品さと馬鹿を自覚する。


当時の学生運動は世界規模だったはずなのに、日本国内での様々な運動は文革絡みではほとんど語られない。加害者と被害者の区別がつかない潰し合いで共通するのは、ポルポト派だけでなく、あらゆる国の軍隊内部での忠誠心を騙った死へ至る体罰とか、戒厳令や戦時下での居住区での相互監視とデマ・密告の流布にも言える。
雄弁に語れる人々は、自己保身を含めて記憶の美化が進んでいるか、最後まで加害者側に属してた処世術がどうにも見え隠れする。