前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

流転する歌

悲情城市の人びと 台湾と日本のうた」田村志津江:著 晶文社92年刊asin:4794961030
89年台湾でヒットした映画「悲情城市」の日本語字幕をはじめ公開に係った著者が、映画の中で歌われる日本語での「幌馬車の歌」のシーンに不思議な感覚を受けて、制作関係者を訪ね尋ねたり、台湾の新聞へ寄稿してから返事を頂いた方々を台湾各地に訪ね歩く。映画に描かれた物語のモデルなった各人の記憶を訪ね歩いて解いていく。書き方はエッセイでも、終盤に二転三転する展開には驚く。事実は小説より奇なり、だなと。


この映画を観ていなくても多くのスチール写真や、あらすじが時代背景と共に随所に織込まれていて澱みなく読めた。正直、台湾映画は古めの4〜5本しか観ていないし、長い戒厳令当時とか気が重い作品ばかりだったので、この本の読み始めはかなり退き気味だった。でも訪ね歩く各人の様々な語りにすっかり引き込まれてしまった。最後に冷水を浴びせられる感覚も著者と一緒に受ける。流行歌は各地で生まれ変わり、詩のメッセージも歌い手に書き換えられ歌い継がれていく〜。台湾流行歌の変遷や台湾語映画産業についても興味深い記述あり。
1950年代から無数の市民を収監した監獄跡地が現在は有名な豪華ホテルが建っていたり、当時の処刑場が青年公園になったりとか、想像以上に台湾に生きる人々は複雑で不条理な時代背景を持ってる、そんなエピソードの雨をくらう。