前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

人間臭い世界に

北方の民族と文化 大林太良著 山川出版社91年刊
文化人類学から長年発表してきた「北方民族」関連の論文を加筆したり纏めた本。著者は網走の北方民族博物館初代館長。
第一章 総論は環北極地帯に住む民族の比較と、シベリアからアメリカ大陸の各民族についての文献からの考察など。北極を中心にした民族の分布図で見ると当然距離感が近く感じる。60年代からのスノーモービル普及による各地の生活全般の激変などは興味深い。
ただ、多くの比較分類に使われるいくつもの論法は個人的には理解しがたい。


第二章 シャマニズム からは北海道から中央アジアを越えてスラブまでの広範囲に語られる。
樺太中国東北部〜シベリアの少数民族についての文献は、戦前からの日本の民族学からの引用が多い。民族の暮らしと環境の変化が早過ぎるので、これからも20世紀前半までに調査された記録が、この学問の基本テキストになっていく。


各地のシャーマンの共通性と独自性、魔術アイテムの杖と太鼓など。最強呪術師の伝説から長編英雄叙事詩の源流までの考察もある。


第三章 熊祭 では各地の儀式が紹介されていて面白い。「食べさせていただく」人間の奥ゆかしさというより、アレな感じが逆に人間臭い。尊敬と畏怖の対象の熊を狩る場合に、「自分が殺したのではない」という擬態に工夫をこらすところなど。エヴェンギ族は熊を狩るときにカラスに仮装して、動作も真似て熊穴の遠くからカー・カー鳴き、狩りの後に帰宅すると家人もカーと鳴くとか。ニヴフ族は熊を屠る時に数々のヒキガエルの印の文様を多用する。熊の顔に掛ける布から、食卓の器までがヒキガエル印という念の入れ様。これも評判の悪いヒキガエルに罪を被せる儀式と思われている。


第四章 アイヌ文化の北方的要素 では樺太〜シベリアの各民族との衣食住・儀礼や伝説の比較をしながら、最後に和人文化との混合についてもっと考察すべきと結んでいる。