前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

正義の死臭

墨攻 (新潮文庫)(ぼくこう)酒見賢一 新潮社91年刊を読む。


漫画と映画の原作になった小説がこんなに薄いページの本とは思わなかった。墨家の特異な思想と技術力の紹介を挟んで物語は淡々と進む。何より城を守る技術がもの凄い。敵がトンネルを掘って城を攻める「穴攻」に、対抗して地中に等間隔に瓶を埋めて水を満たし膜を張って、耳の利く者に異音を探らせる技には驚愕。等間隔に瓶を置くのはおおよその方角を推察するため。台車を使った壮絶な戦車戦もフィクションには思えない。小説には空を飛ぶものは出てこなかったけど・・・。


城の全権を委譲された主人公が城下の民衆に全員兵士としての徴用を宣言して、何度も「〜する者は斬る」と繰り返し言うところは、遠い未来の明治に起きた秩父事件の「困民党軍」の戒律を思い出す。
主人公が城の者たちへ士気を高める&見せしめの賞罰のシーンは、厳しい戒律をあてて王の側室でも斬った韓非子の逸話にも似ている。漫画版「墨攻」は未読だけど、原作では主人公は守るべき村人達にも謀略行為を行なっている。
城の若様が墨家の教えの矛盾を突く「非楽」(悦楽の為の音楽を禁止する)では、笑うことも泣くことも禁止したという20世紀のポルポト派に繋げてしまう。
ナルホド墨家は歴史から短期間で消滅した。でも「兼愛」とか平和の思想を説く者が招く悲惨な結果はどうしてこうも似るのか。