前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

満州イエローページ

阿片王 満州の夜と霧

阿片王 満州の夜と霧


かなりの関心を持たれて読んだ人も多いはず。
満州の裏社会で甘粕正彦と並び、「阿片王」と呼ばれた里見甫(さとみ・はじめ)の実態を、世紀を跨いで存命の証言者を探して歩くルポ。本書の終わり近くになって手に入れる里見の妻の横向きの写真がなにやら印象に強い。葬儀で遺体に小石をぶつける記述も。


関東軍の機関で満州を中心に阿片を売りさばく元締めだったという人物評は知られていても、戦後日本のメディアの人脈(大新聞・広告代理店・地方ローカルテレビ局まで)に根っこで大きく関与している事は、この本が話題になっても言及は少ない。世襲制の業界で関係者の子や孫が多いんじゃないかなと、余計な勘繰り。
著者は里見甫の戦後の秘書を探し出し、その胡散臭い人物*1を分厚いルポの前後に挟んで、関係者・近親者と少しずつ相関図をあぶりだしていく。著者が望んだような今現在に繋がる「満州」本だと思う。取材するなかでは避けられない、美化され脚色進む老人達の想い出から、不良老人の自慢話や謀略本まで精読しなくてはいけない「苦痛」は読者には免除されている。取材中にこの時代の貴重な証言者が雪崩をうって鬼籍に入っていく。


ジャンルの違うように見える佐野氏の著作は細い線でつながっている。「巨人伝」は戦後日本のメディア王だし、「東電OL殺人事件」で重要な建物になる所有者が「許斐機関(このみ)」の関係だったり、民俗学者宮本常一を「旅する巨人」で追う途中で、戦中の国策を伴う民族学の学者グループと「昭和通商」などの特務機関の濃い関係を見つけたりもする。

*1:ゴルゴ13を全巻揃えている箇所で失笑