前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

東北のアジア

『大河流れゆく アムール史想行』林郁(著)88年刊ISBN:4022558881
本の題名だけだとロシアと黒龍江省を流れるような紀行文かと思う、実際の内容は明治から昭和の戦後までの女達の東北アジアでの出来事を調べて歩いている。それだけに留まらず、日本占領当時の阿片ビジネスの話、中国の朝鮮族の話、北海道アイヌに連なるシベリア沿海州少数民族の現在の話まで。


被害者/加害者といった単純な割り切りはしていない。満州での無数の女郎屋で商売をさせられている女達でも日本人>朝鮮人>満人と蔑みの感情があったとか、敗戦直前のソ連進攻で逃げ遅れた民間人の女性達が生きる為とはいえ赤ん坊を絞め殺したり(それが戦後何十年も苛まれる)、劣等民と馬鹿にしていた満人の妻になるのを長く拒んだり、当時の日本人のナチュラルな差別意識まで事実として記されている。


中国側の革命に参加した日本人の長谷川テル「緑川英子」の最期も意外な話だった。夫に正妻が居る事が解って、3人目のおなかの子を妊娠中期の危険な中絶手術を望んでした結果の死。国際革命戦士という碑文は合わないような、生者が勝手に祭り揚げてる感覚が。


日露戦争前後のシベリア沿海州に送られた「からゆきさん」の話は読んでいて鉛のように重たい。ロシアで女中や子守をすれば儲かると騙されて日本から海を越えて船で送られ、港で日本のやくざに奪い合いになったうえ、女郎屋で毎晩何人も男に買われる。日本軍の密偵がロシア軍の細かい情勢を探るために、彼女たちからロシア兵の床での話を引き出す協力行為など愛国的「娘子軍」と褒め称えられている。その褒め方も今の視点でみると底無しの侮辱に思える。財政もトコトン苦しいくせに軍備ばかり拡張する大日本帝国は、愛国婦人会から派遣されたおばあさんが、お国の為に寄付をと満州から東南アジアまで、広く各地のからゆきさん達を廻って黒紋付、羽織を買わせる行商までしてる・・・・呆れる。醜婦業とさげすむ一方で郷愁につけこむ愛国産業。


この本の読み返し中に、ラジオ深夜便で、ちあきなおみの「ねえ。あんた」が流れる。