郷土史家のちから
- 作者: 平山裕人
- 出版社/メーカー: 北海道出版企画センター
- 発売日: 2002/12/05
- メディア: 単行本
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一方的に日本側に搾取されたイメージが強いアイヌの交易も、結縄を使った数の記録など紹介しながら20進法(魚を20匹縛る単位とか)や下の桁から数えていく算術も面白い。それでも江戸期に米と魚の取引がアイヌ側にどんどん不利になっていたのは間違いない。
江戸以前の渡島半島でのアイヌの戦いの文献「新羅之記録」は当然後世に勝者側が書いたもので、何度もアイヌのリーダーのだまし討ちを成功させているのに筆者は疑問を抱く、若狭「羽賀寺縁起」の記録から藩主の死亡交代時期が大幅にずれていることをつきとめる。アイヌの完敗という史実は怪しくなる。侵略者側の内紛とアイヌ同士の対立はこのほかにも見られる。
『エゾの歴史―北の人びとと「日本」 (講談社選書メチエ)』海保嶺夫著を先に読んでいた分、多少理解し易かったかも。重なりあう部分と相違点、新しい補足と情報が載っている。北海道〜東北の中世史研究は進んでいる。
第三編の「アイヌ語地名の歴史」を考えるで、18世紀以降に交易の主流が鮭からニシンに以降していたのを、記録された地名から読むのは面白い。ただ日本列島の地名でみるアイヌ語検証には微妙な感触を覚えた。中央アジアを貫くトルコ〜ウイグルのチュルク語系とか、インド洋を跨いでマダガスカルまで繋がるインドネシア語圏などのスケールを思えば、アイヌ語地名を南方まで探す思索はそう荒唐無稽でもないはず・・・でも。