前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

百年前の対岸へ

デルス・ウザラ (地球人ライブラリー)
「デルス・ウザラ」V・K・アルセニエフ著
 黒澤明ソ連映画人と組んだ75年制作の「デルス・ウザーラ」元本の復刻版。映画では前回の探検で出会うところから描かれている模様。


樺太・北海道と海を挟んだ対岸の極東ウスリー地方の1907年からの探検記の一部として書かれたもの。ゴリド人(現名ナナイ)の老猟師デルス、彼の類稀な危機回避能力、動物の行動を読む、自然の天候を読む技能に驚く。探検家は危険な道中で彼に何度もデルスに助けられ、全幅の信頼を寄せている。精霊信仰だけでは説明できない彼の論理を理解しようと、長い道中で根掘り葉掘りと話を訊いている。それが探検記のなかで、このゴリド人の生活習慣を今に伝える内容になっている。
当時のツングース少数民族と、増え出した中国・朝鮮・ロシア・日本からの移民・交易の様々な関係も、デルスのヒトの足跡を診る能力で読み解かれる。旅人にも親切で原始共産制のような暮らしをしている先住民にとって19世紀中ごろからは激変の時期で、毛皮の交易で商人からイカサマに近い負債を抱えさせられ、奴隷使役にされたり、天然痘などでひとつの村が全滅したりと災難が続いている。


貨幣の存在もまだコイン中心の物々交換で、ある村で知らずに額面の大きい紙幣を大量のコインと両替しようとしたら『涙ぐまれ』たりしている。コインはボタンからアクセサリーまで応用ができる価値のあるもの。紙幣は「国家」の信頼が無いと古紙にしか見えないだろう。


密林タイガとうねる川、暴風雨、寒さ、虎の襲撃と読むだけで、同行は遠慮するよな探検記でもある。彼の最期はイギリスに帰ったターザンの創作話と重なって、あまりに救いがない。動物と対話する老人の話として読んでしまうのも危険だけど。


◎後記 

北のことばフィールド・ノート―18の言語と文化

北のことばフィールド・ノート―18の言語と文化

第三章 デルスの見た星  ウイルタ〜ナーナイ〜ウデヘによると、アルセーニエフの著作には冒険物としてのフィクション性が強く、デルスの自称ゴリド(ナーナイ人)もウデヘ人の可能性もあると紹介されている。