前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

アイヌの秋 1912

アイヌの秋ー 日本の先住民を訪ねて」未来社88年刊ISBN:4624410653
1912年〜明治から大正へ年号が変わる1年間、日本で過ごし各地を旅したチェコ人旅行作家ヤン・ハヴラサ氏の日本語翻訳本。
原題は「日本の秋 わが生涯の断片」プラハ1930年刊で日本の紀行シリーズを含めて多作。本編の東北編は端折っているとのこと。
横浜から八王子へ紅葉を観にチェコ製自動車クレメント・ラウリンカでドライブへ。道中に視る日本人のお辞儀と万歳など礼儀正さに驚いたり、(モータリゼーション初期は欧州の田舎では石を投げられたりしたとか)ただ、慰謝料目当ての当たり屋が既に出没している説明もあり。この時代で既に、クック旅行社などの団体ツアーとは違った旅をしているという自負が時折の皮肉を通して語られている。


北海道の旅は日数こそ少ないけど、当時貴重なカメラで枚数を気にしながら、登戸登別温泉の浴場の中までも撮っている。最後の一枚を使い切った直後に若い女性が入って来た、とかチェコの温泉地生まれの男はなにやってんだか。
それより、当時の外人観光客が日本を格安で豪華な旅が出来たことは羨ましいかぎり。日本国内は宿泊費、交通費と外食費が高過ぎると思うので。この本を読んでいると、過去の日本を観る時は既に外人の視線と同じでは?という感覚がする。知っている限りの英語で話し掛けるストーカー学生とか(『彼らがふつう英語で答える時には、情報が正しいとかどうかはお構いなく、手持ちの単語や言い回しを見せびらかせるか、増やすことだけを念頭に置いているのである』)、温泉地での和人の全裸無礼講ぶり、帰路の車中で向かいの席になった少年に凝視されて、動物園の感想文の代りとしてガイジン観察されたり、出会った日本人の生態と向学心が面白く語られている。


この本のメインはアイヌの村へ行くところ。アイヌコーカソイド説(白人と同じ系統)というファンタジーを当時の西側知識人達は持っていたので、憧れ熱い訪問になっている。侵略者とみなす和人への態度は手厳しい。「文明と文化はバクテリアのようなもので〜」というくだりは今も使えそうな気もする。ただ「滅び行く民族」のフレーズを多用して希少動物の見物にしか思えない処も数々ある。アイヌ語辞典を作った宣教師バチェラー氏とも面会して感銘を受けている、なのでアイヌ文化の解説がそのまま請け売りになっている。それも誤解を含めて当時の外国人旅行者の感覚が伝わる。なにより写真が好い。シベリア系民族との類似を語り、アイヌの男性はロシア農民の佇まいに似て極めて男らしいとか云々。