前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

中国農民調査

中国農民調査

中国農民調査


厚い本を読み終わり。丁寧な内容紹介は他サイトにあるので簡単に。
ドキュメンタリー文学というジャンルでの夫妻による三年以上の農村での調査を本にしたもの。
三部構成で、一部は90年代に各地で起きた事件を追う。村幹部による勝手な名目での税金取立てが繰り返され起こった傷害殺人事件から衝突、中央への直訴など関係者への聞き取り再現。首相の農村視察での偽装工作など。二部では農民への不当な取立てを禁止する税制改革「実験」と試行錯誤、既得権益を守ろうとする妨害工作との戦いを。三部では調査〜執筆までの農業をとりまく動向・問題点を記している。


農村は主に南京の西に位置する安徽(あんき)省を中心にしている。省都合肥から省境の極貧の村まで、これでも充分広い。省の消極的な態度から二部では他省での動きも多くあり。
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中国国内での発禁処分の理由ははっきりしていないし、読んでいてココだと分るものではなかった。むしろ「ドキュメンタリー文学」のせいか実名で登場する人物描写へ多用する修飾語がとても引っ掛かる。毛沢東語録訒小平の南巡講話などが、硬い官僚制度に農業改革が阻まれる度に『逆境に打ち勝つ名言』として使われる箇所も多い。発禁本に惹かれた読者には拍子抜けかとも。これは表現者による通常の政治的配慮かもしれない。


長くTVを見ていない暮らしが続いているので、この中国農民問題が日本でどう伝えられてるのか知らないけど、新聞では直訴を陳情と訳されたり、去年の反日デモ映像と同じ切り口の農民と警官隊の『暴れる』映像とか流されている云々とか聴く。毎度中国の異常性で納得できるなら、ある意味人生エンジョイできるかも。皮肉でもなく。北朝鮮は税金の無い天国だと褒めてた文化人が居やがったな。皮肉でもなく。


格安の中国産野菜は加工品を含めて日本国内の小売店に売られている、中国側の輸出部門と商社の関係が具体的に知りたくなる。緑の革命以来、先進国の化学プラントで作られた毒性が強すぎて販売禁止になった農薬の輸出先でもあるし。本書では、言いがかりに等しい村の税金の取立ての繰り返しにあう農民が、目の前で農薬を飲んで自殺する箇所もあった。


人格まで変える制度上の問題を伝えるものとして、第一部で農民の困窮を救おうと活動した人物が、第三部での近況では『災害支援金を着服した党員』として農民から告発されている。告発内容が事実なのかは一読者としてすんなり読めない。巨大な飢餓を生んだ大躍進から文革時代の10年を体験した農民達には当然の「したたかさ」はあるだろう。組織制度の問題はイデオロギー無関係で世界共通の煩わしさ。


日本国内の農業政策と現状のJAについて自分の浅い知識で騙るのは止す、この本での問題指摘は根っこに共通性がある。と思った。