前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

民族で読む中国

民族で読む中国 (朝日選書)98年刊の共著。
件数で理解は埋められぬ。だけどメモ。

民族で読む中国 [第一章 漢族と少数民族]


少数民族はどこから来たか ・・・・・・華南の祖先移住伝説 /瀬川昌久(著)
客家チワン族の祖先伝承への史実と神話の検証が始まりとして出されていて面白い。確かに、圧制された側の神話なのに、自分達が支配者の祖先だという「反転」した伝承には納得されられる。国内では坂上田村麻呂に馬を献上した三春駒の噺とか。割と多いケースなのかもしれない。)



民族集団はどのように作られるのか ・・・・・・「屯堡人」は漢族か?/塚田誠之(著)
少数民族が別天地へ移住してそこでの関係性から「漢民族」というアイデンティティを獲得する変化を、資料を通して紹介している。更に一部の移住者達が別天地で少数民族化しているケースなど。)



西からやって来た異教徒 ・・・・・・江蘇省における「回族」の移住/西沢治彦(著)
(定点観測のような南京を中心とした回族の歴史。都市住民の変遷として読むのも面白いかも)


協調と対立 ・・・・・・清末のモンゴル族と漢族/白岩一彦(著)
(開墾に抵抗する遊牧民の理由を、民間伝承で初めて納得させられた。基本の基本を解らずに日々読んでいるのを痛感。農業とは人工的で環境破壊である、という巷の一見過激な意見にも、穴だらけの土地で大切な馬などが足を捕られて骨折する「危険」がある遊牧民からすれば当然なのだ。)




民族意識」の現在 ・・・・・・ミャオ族の正月/鈴木正崇(著)
(現代の今、行事を通して変わる伝統と再認識。縁起物の化け物モウコウに会いたい。)


[第二章 華僑・華人・同胞]


中華総会館の役割 ・・・・・・十九世紀のハワイ /中間和洋(著)

労働移民も多いがキリスト教系の教育機関が大陸の優秀な人材を育てて、20世紀の中華圏を築いている様子が解る。孫文なども含まれる。)



マレーシア多民族社会の中で ・・・・・・北ボルネオ(サバ州)の華人/野村亨(著)
(個人的には熱帯雨林伐採問題で知った場所なので、先住民より華人を中心に説かれる部分は、仕方ないのかやや感傷的に読んでしまう。)



宗親総会と大宗祠がつなぐ ・・・・・・タイの華人社会/吉原和男(著)
(タイも華僑グループの繋がりがとても多い。新しい世代はまた違うとか。旅の中では都市部でしか気がつかなかったが、隣国マレーでは片田舎に華僑の出身地別公民館の建物が多く視られた。)


多文化社会での活躍 ・・・・・・中国系オーストラリア人の場合/関根政美(著)

(80〜90年代の中国系移民とオーストラリアの事情と影響について、書かれている。前日書いた『ホワイトネイション〜』とテーマや関係性が深い。)



「近代性」の経験 ・・・・・・香港アイデンティティ再論/森川真規雄(著)

(香港を表した「転がる石に苔は生えない」など、香港人とはなにか再考。自分としては、めまぐるしく変わり続ける完成しない観光地でもある。)


[第三章 民族と国家]


台湾における政治体制変動とエスナショナリズム ・・・・・・「新党現象」試論/若林正丈(著)
本省人と元台湾人の議論はよく知られているが、建国第一世代と第二世代とのギャップと、大陸との揉まれ方には知らない事が多い)




中国の南北問題 経済格差の拡大/佐々木信彰(著)

(資源供採掘基地としての自治区と消費する沿海州。少し古い数量データが多い。この問題を扱った書籍もいくつかある。)



中国共産党の民族政策 その形成と展開/国分良成 星野昌裕(著)
(このリアルタイムの研究は政治的障害が多いと思われる。)






せめぎあう「民族」と国家 飯島茂(編著)アカデミア出版会1993年刊


論文集のようなもの。内容は素人が読んでも面白い。
以下、気になった何章かを()でメモ。


「私は、何者か」-イラン人の帰属意識と国家意識 /上岡弘二(著)
イラン・イスラム共和国の国名の通り多民族国家である、北のクルドや多宗教、個人の国家への帰属意識の矛盾について書かれている。)



「ネワール的」な国から「ネパール的」国家へ-南アジアにおける多民族・多言語社会の国民形成/ 石井溥(著)
(ネパールと言う国も複雑。チャンタン高原に連なるチベット文化圏とヒンドゥー圏と、今の王室問題。)



「われわれに、くにを返してくれ」-カナダ連邦政府と先住民のせめぎあい /江口信清(著)
(旧フランス領ケベック州でのモホーク(モヒカン族)先住民を中心に、復権運動の話。モホーク・イヌイット・メティスのファースト・ネイションと呼ぶ民族グループがある。90年に起きたゴルフ場開発での抵抗事件では、警官と銃撃戦、戦車まで動員された。土地は一時政府が買い取って管理し、抵抗運動は二つに分裂したと書かれている。今現在ネット検索するとモヒカン族管理というカジノやゴルフ場のサイトがある。モホークは母系社会でクマ・オオカミ・カメの3氏が名乗られていると書いてある。ケベック周辺だけだろうか?)


できていた「国家」と選ぶ「民族」-アフリカ民衆の生活戦略 /和崎春日(著)
『部族の「純粋伝説」の覚醒と部族意識へ向かわせることは、古い過去の中にあるのでなく、現代の政治力学の中で生成している。』
(文頭に「部族主義」という先進国での安直な使い方に批判をしている。アフリカでのヨーロッパ植民地での特定部族の登用は、入植者という名前で他部族との争いを生む。都市部でフルベとハウザとバムンを総称して「ノルディスト」と呼ぶ。都市生活では便宜上他部族になりすます現象もみられる。普遍性がある話)



創られた民族-中国の少数民族と国家形成 /鈴木正崇(著)
(過激なタイトルに惹かれたが、総称として決められてしまった民族が、国家の中で自覚が生まれつつ平坦化される現象について書いている。1984年『民族区自治法』制定。民族グループのなかで、各地の言語・習慣の違いを、祭日や正月、観光イベントなどで従来の神話や造形の偏差を捉えなおす、動き。)



「マンガ国家」への逃走-劇画『沈黙の艦隊』現象の解読 /山本勇次(著)
(着眼点はこの時期で新しい。ただ大学生に取ったアンケートが誘導形式ではないかと思う。逃走で済まない漫画の影響力に当惑するばかり。)