クルディスタン医療奮闘記
85年からイラク・アフガン・湾岸戦争と経験のある麻酔科医師が、92年末から2年間派遣されたクルディスタン(クルド自治区)での激烈体験記。99年末出版。
今日も病院に銃弾の雨が降る―クルディスタンはちゃめちゃ医療奮闘記
- 作者: 鈴木崇生
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 1999/10
- メディア: 単行本
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猟奇的なエピソードと痒いところに手が届く状況説明で、とても読み易い。本来は死体の山に似た重い疲労と、血の匂い充満の怒りの体験なのだろう。現場での素直な記述には、激しい拒否反応を起こすココロ優しい読者皮肉も居るとも思う。想像するに、「過激」として編集校正で外されただろう文章まで読みたくなる。
届かない援助物資、病院内でも盗まれ続ける医療品、電気も滞る設備も使えない環境で、日々負傷者が運ばれて来る。クルド人同士の二大勢力(周辺国スポンサー付き)が慢性的に殺し合い、負傷者が待合室でバザールのように溢れる。VIP患者の担当医には病院内の密告者を通し、「治療を続けると殺す」と脅迫まで来る。亡命する数少ない腕のいい医師たち。先進国からのNGO医師団は、ど下手な連中だったり、手術の上達練習に団体でやってくる。
有名NGO活動への様々な苦言など、少しは改善しているのだろうか。
読書中、自らの残虐性を含めた度量を試されている錯覚もある。
少なくても、痛快!とか面白い!とは書きたくない。
イラク戦争後3年の今読むと、クルド人の命を救いながら「抑圧されたクルド人」という単純な報道を看破する内容が多い。戦場で活躍する日本人医師、的なヒューマニズムの被写体としてそぐわない著者は、強烈な個性の持ち主。この島国には好い意味で危険な医者。