アイヌ近現代史読本
- 作者: 小笠原信之
- 出版社/メーカー: 緑風出版
- 発売日: 2001/07
- メディア: 単行本
- クリック: 11回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
戦前からの植民地的民俗学への検証がここ数年出版発表されるようになっている。アイヌ研究で学者達との様々な人間関係も、他の書籍を読む大事な脚注になると思う。戦後の差別糾弾運動での専門化してしまった重たい表現も使われていない。北の大地へ倍々ゲームのように流入する和人と、各地でのアイヌとの関係が、資料によって淡々と積み重ね、丁寧に紹介されている。何処を抜き出しても長文の感想になる。
明治政府が任命した開拓使庁長官「黒田清隆」は出身の薩摩藩の人間で周囲を固めて、開拓10年計画を作成実行する。アドバイザーに米国の第二代農務省長官ホレス・ケプロンの顧問団を招いて、天然資源調査、放牧、近代農業のプランを作らせる。
薩摩藩からの奄美侵略と琉球の植民地経営を、北海道で発揮した、という引用文からの紹介には、心底凍える。
広大な御料地を創っては先住民のアイヌを強制移住させ飢えさせている。あまりの困窮ぶりに、奪って奪った土地の一部を保護地として『与える』のちの旧土人保護法などの政策もするが、これすら大倉財閥創始者「大倉喜八郎」が旭川の開発でアイヌから奪い盗って第一次の『近文アイヌ給与地紛争』が起きる。大倉は北海道では黒田長官時代からの昵懇で、刑務所を造ったり札幌ビールの前身になる施設など官から格安払い下げを受けている。これが日本経済界の偉人の業績なのだとか。
無論、和人の良い行為も何人か紹介されている。ここで列記するのは作為的だけど、
1865年に英国領事館員の起こした「アイヌ墳墓盗掘事件」で強く抗議談判した函館奉行小出大和守、明治初期にアイヌの強制移住樺太強制連行に抗議した松本十郎開拓大判官、明治末から長年アイヌ学校教師を勤め窮状を紹介した吉田巌、その他。
戦後から現代までの事象も詳しく載せている。
今の呼び名になる前段の北加伊道という名前の発案者、松浦武四郎の「アイヌ人物誌 (人間選書 (47))」はこの本の前史になる。松前藩と場所請負人制で苦しむアイヌの各地での「現状」を書き記している。
和人達の川下での網を使った鮭の乱獲などは、里で暮らすアイヌの生活を簡単に破壊してしまう、やむなく森林伐採や漁場での奴隷役で日々衰える、女は和人に犯され梅毒までうつされて死んでいく。地域差はあったとはいえ虐待と殺戮は樺太の方々まで惨状を記されている。幕末にこうであったのだから、ロシアとの駆け引きで「北方領土」と称する日本国の主張には、膨大な犯行歴が固有の領土を証明することになるのか。