前略。スターリン(旧ソ猫を噛む)

好きなドキュメンタリーと音楽と旅を楽しむ前提で原発の今

出ニッポン記

出ニッポン記 (現代教養文庫―ベスト・ノンフィクション) 上野英信 著
1950年代から60年代にかけて閉鎖されていった日本の炭鉱から南米に移民として渡った家族たちのその後(1974年3月から9月まで)を訪ね歩いて取材したルポルタージュ 記述文学。本のタイトルは出エジプト記の一場面の絵を部屋に飾っていた家を訪問した所から使われていると思う。


南米大陸の広大な国々を飛ぶように周って、筑豊の炭鉱で働いた男女の家族を探し訪ねていく。単なる追跡調査でないのは著者もまた炭鉱労働者だった事で共有する取材される側との一体感。劣悪な環境で生死を共にしたことで、行く先々で熱烈な歓迎を受けている。裕福でもない地でもてなされるご馳走や取材先へ車の送迎など申し訳ない思いも記されている。
日本の場当たりエネルギー政策のなかで南米移民という名目で労働者の棄民が行なわれた、と言える内容も訪問家族のケースは様々で、各国での暮らしや未来は一様ではなかった。


日本からの移民は明治以来、戦争を中断して続いていたが、移民に与えられるはずの当地の保証がデタラメ、移民事業者の業務がデタラメだった事は半世紀以上も変わらず続いていた。『証明する骨をもって来い』と暴言を吐く日本領事館の不遜な態度に憤り、亡父の死亡届を取り止めた方の話など読者の中に『生き続け』ていくのだろうか・・・。国家丸ごとが性悪な人材派遣会社のようで、時々外の空気を吸いに行かないと、とも思う。